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 朝から降り続けた雨は、放課後になって曇り空に変わった。
 だから、確かに油断していたのだ。
「―――うわ、雨だ」
 安物のビニール傘を盗られ、空手で校舎を出た直後、ぽつりと頬に雨の雫を受けた。
 たちまち雨脚は強くなり、ぱらぱらと学生鞄に弾けた雨が音を起てる。
 ―――反則だ。天気予報では、夕方から晴れると言っていたのに。
 無意識に走り出そうとした瞬間、足が止まった。
 ―――気がついた。
 自分は、もう走れない。
 前髪から滴った雨が、醜く視界を歪めている。
 眩しすぎるライトを点けた車が、水飛沫をあげて通り過ぎた。
 路上に佇むその姿は、ずっと雨の中に立ち続けるように見える。
 けれど、やがて俯きがちに歩き出した長身は、溶けるように雨に消えた。
 
 後には、降り続く雨だけが残された。


≫ night